春のフェリーを待つ 空の彼方で放哉が笑う
放哉も山頭火も渡った海をわたしも渡る
みんなで贋作を見ている 嘘のない春
汐が満ちれば消える道を夕陽とわたしが歩く
障子あければ海のかわりに暮れてゆく花 |
荒木勉
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両手両足上にあげて眠る猫の暑い夏
ガン告知され笑っている人の心知りたい
言ったことが刻々変わって淋しい一人ぐらし
うすい肩 口をつぐんだ友に何も言えない
超ミニスカート 目が宙を舞う |
石竹和歌子 |
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「昨秋」
剥く手が痛くて 栗の実それぞれ
私が七つ剥いても母は栗の皮の山
渋皮煮に挑戦する妹 案の定失敗
渋皮煮に二回目全身で挑戦成功す
美味しい栗沢山に舌鼓をうつ母と私 |
伊豆素子 |
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島の灯が星になる海の春寒
燐寸すって真昼の匂いを嗅ぐ
笑えば笑って淋しく虚空へ放つ
鬼女に逢ってみたい無明の闇の中
わが体蝿がもてあそぶ淡きかなしみ |
井上泰好 |
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川面に鰯雲 風雪に耐えた石の丸さ
渡って知る 川の深さ流れの速さ
父よ母よ こだまする水平線
星の瞬きを吸い込む
トントントン よろけて己の影踏む |
いまきいれ尚夫 |
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なつかしい建物が消える思い出また消える
飛行機雲一直線たったそれだけ
広げた地図ふわり夢
新緑の中おもいきり深呼吸
信号待ち 木陰にそっと入る |
内田麻里 |
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身体(からだ)のきしみひとつふえて 誕生日
まっすぐな道 点になるまで母を見送る
本を手に風の通りみちさがす
横書きの便りに縦書き 風鈴がゆらり
遠くで雷夕立の匂いが迫ってくる |
江内キヨ子 |
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初盆のローソク消えるまで語りかけている
好きだった畑も気力と重い足
娘の気づかいが残る足のうら
ちがう道もあったかと心さわぐ八月
打ち上げ花火が見えなくなる近代化 |
大谷房代 |
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水鳥が秋を浮かべている
秋風の色は朱か
日が落ち祭りが鼓動をはじめる
酒に月がさかづきの形で
ふるさとは積み重ねた思い出と風 |
大村九華山 |
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気づけば沼 鳥の影が過ぎる
人逝きて 声ばかりが残る
夢の中に目覚め 碧落
こんなはずではと立ち止まり かくの如しと歩き出す
当て所なく歩き 行き暮れて彼岸花 |
岡田隆 |
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銀婚式 久しぶりのスカートでいる
抱きしめてあげたい迷路に佇むあなた
何があったの まっ黒の道がつづく絵
「めっちゃうま」その一言ではりきっている
芋づる 庶民の味からブランド品へ |
門田美和子 |
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孤高の人を不動の鷺にみる
生きざまに似て浮草ゆらぎ着く
なあんにも 雲一つない空に吸い込まれ
心の棘までは抜けそうもない指の棘
何を悶々(もんもん)世の中からっ風吹くばかり |
金子新吾 |
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けがに病気 人が言う四十四のならび芋
汗だくの盆おどり 順位に冷たい風
正直に枯れる植木に水
恋に恋してダイエット
まだ見ぬ孫は幼稚園の制服 |
河村紗智子 |
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春を漕いでいるやなぎミモザ
さえずりに引かれ浮橋わたりきる
コツーンと枇杷のたね梅雨あけの朝
ふり返る墓の カラスも鳴かない
冬物を洗って余生の賭にいる |
重富 架光 |
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小さなはぎの笑顔と目があう
風鈴つるしてしあわせな風をきく
雷で雨やどり空とにらめっこ
ぐみの甘ずっぱさ少女でいる
小さならせん階段かわいいねじ花 |
清水ステ |
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重ねた歳をいとしく写す寒い部屋
大切にした街が心の中に座りこむ
気分のうきしずみにきりっと紅をひく
いらだつ暑さ蚊のおえない手のやりば
うしろ姿あの人に似て立ちどまる |
下瀬美保子 |
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新興住宅たちならび孫の凧が上がらない
「六人目の孫よ」と娘はらにふれ
可愛くなったかな またパソコンを開く
「おじいちゃんいる」の電話にこみあげてくるもの
スーパーの賑い 孫かと振り返る |
白松いちろう |
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あるきはじめた靴十二センチ
園児のままごとに苦笑い
ビルの谷間に青田いすわっている
少しなじんだメールあれこれしゃべりだす
なにもかもふる里と結びつくなつかしい名前 |
新山綽子 |
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シャガールの舞い降りる あさもや湯布院の里
由布岳のふもとに突然若者通り
ハネムーンの土産に タヒチの空と海と
花嫁の心を映す あかねいろの海
熱帯魚と泳ぐゴーガンの日常 |
杉山和子 |
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行き止まりに挑む 微かに流れる水音
開くはじめた山頭火記念館の重い扉
義母(はは)と別れの夜 月下美人咲き乱れる
紙飛行機 自由自在に夢を飛ぶ
UFOの動き真似るコウモリ 五次元に遊ぶ |
高木勝二 |
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ちびくれた下駄は花咲く庵(いおり)まで
だまって丸い月に立つ
砂に消えた夕焼けをあるく
傘のうしろ姿雨にやんでいる
月に水打つ |
高橋正治 |
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ビルの陰を選んで歩く
暑い 向日葵もうなだれている
(八月十五日の記憶)
あのラジオを聞いた日も暑かった
萬歳(マンセー)の声が走ったのは暑かった
陽炎にラジオの声もゆれていた |
高村昌雄(昌慶) |
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戻れない橋に振り返る百日紅
男の悲鳴して○が逃げくる
磐座の陰に化粧直しの面面
美しい人で卵の白身は食べない
髪を振って拭ううなじの汗ほのかに |
立花さとる |
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時間がとけだしたグラスの水滴
石ころはこの地球(ほし)のかけら
紙ヒコーキの軽さで ツバメ飛ぶ
コンソメスープの分だけパセリ摘む
夢のかけらをパッチワークにして ひとりの夜 |
田中里美 |
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ふるさとは思い出ばかりの風のなか
ふるさとの病む伯母のつぶやき バスのひと
少年時代の思い出さがす 炎天の旅
「夏休みの宿題やった」受話器もおどる孫のこえ
色あせたシャツに馴染んで車窓に居る |
田中利男 |
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物干しの蜘蛛の労作さけて干す
青大将の前で踊る鶺鴒の親になみだ
今年も暑い八月十五日の重い雲
怖れなく灯せる喜び 六十二年前のあの夜
朝はモズ夜はまつむし愁眉を開く |
田中尚代 |
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夢うつつ夢のなかで夢みている
しとしと雨降る かえるが跳ねた
ピカリピカリ闇に浮かぶ生命(いのち)の象徴(しるし)
忘れられたの落書き波が洗う
Iは愛で YOUは友で すれ違う |
田中宏司(流転) |
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創刊号 さすってめくってだきしめた
どしゃぶりなんのその学校帰りがあそんでいる
開くだけの八月にはしない
きゅうりも道も曲がっていてはいけませんか
遠い耳へハガキの出番 |
田中むつこ |
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仏めぐりは ためらいながら曼陀羅への道
青き風に酔いこもれびにほだされ今日の歩み終る
嵐とともに去りし師は仏となりて今ここに
背を丸め はげみし杖も笑顔もなつかしき
追いかけてくる赤とんぼ 朝つゆの光の中に消えて |
種田美奈子 |
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蕗のとう採らずにゆく
大根に詫びて大役ひきうける
白い青衣(あおざい) 笠よりこぼれる長い黒髪
ホルマリンに浮く奇形の胎児 神の啓示
トンボすいすい 小さな秋つれてきた |
坪郷 康(也寸志) |
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としよりの手をひくとしより
新聞よむ手に木もれ日ゆれる
星はいつものところでかがやいています
捨てずによかった さみしがりやにきく薬
夏の朝 木陰に憩う鯉の群れ |
寺内ヤス子 |
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風呂のなかにバッタやチョウも
湯けむり 風にわらう
月のひかり等しく すずむしまつむし私にも
耳鳴りか虫の音か秋月よ
虫の音 闇も酔う |
戸田勝範 |
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人間の知恵とはそんなものか原爆というもの
探すものいつもなくて不安だけが置いてある
貧しさ遺伝して表札もないまま
老樹まっすぐでそれからのこと
すぎゆくもの物語となりすぎゆく |
富永鳩山 |
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わくわくする縄文土器のかけら
傘が笑い傘が走る
やたら使ってほしくない「美しい」ということば
影も歩く
鎌のような月 浮き世を忘れる |
永松志都子 |
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いつも頼みごとばかりの神詣で
返信待っている長〜い一日
風そよとも動かず山の寺だまって歩く
風吹いて大波小波の麦畑
せせらぎに耳かしている昼下り |
中村ユキ子 |
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猫の背中にも春
また孫が生まれて顔のしみもふえた
黒い蝶がとまっている だれの墓やら
蝉・蝉・蝉の声 まさに夕立のごとく
ツクツクが宿題の残りをせかせている |
那須正幹 |
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闘病果てて若葉は名残り雪のごとし
法王空飛ぶ空飛ぶ本を読みながら
晩年やすべては瞬間すべては光
明日はいかに透明いのしし暴れる空
声は虚空へ地平へ画廊の定点より |
夏石番夫 |
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妻十四回忌 噛る乾いた仏飯(ほとけめし)
旅疲れの奧目に時事(じじ)屹(そそ)り立つ
鈴なりの柿の夕陽に撃たれる記憶
独りのむ酎 時事は捨てる
待つものなし ただいまのベルを押す |
西村謙 |
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思い出は重荷とも宝とも 時のたくらみ
見つけたよ見つかったよと さがしもの
なにもかも包みこんで 月の雫
あと一歩ふみこめず 草茂る
瞑想する庭守り 石と語る |
濱田知子 |
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ふうりんがりんどうにいとでんわ
パセリ こもれびのオムレツにも
海に着いても終わらない水の透明マラソン
ゆうやけがそめるみずのくちびる
ダイダイがだいたい橙 |
林 木林 |
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炎天下精いっぱい一日花
生きていたかネ 弾む立ち話
トンボ風のリズムで青田の上
懸命の一生 落ちた蝉
緑のジュウタン 風走る |
原田喜代子 |
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夕立ちの窓辺は土の香り 胸一杯
くせのある ラベルの文字が父のおもかげ
出口のない私の心が叫んでいる
しがみつき ただ踏みとどまり踏みとどまり
理屈では明けない永い夜 |
桝田裕子 |
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岩かげに花一輪 凛として
ふるさとを背中に岩山を歩く 頂(いただき)は遠い
にぎやかな孫の一声 じいばあ
すぐそこに母が居る もう十三回忌
山にきた山にきた 空気がうまい山にきた
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松浦正人 |
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夕立の雨音 耳に自由律
蟻子(ありこ)手の甲どこまで歩む指先ではじく
五葉の松に虹 雨あがる
陽ざしまぶしく秋が黄金色になってきた
若がえりの薬で娘の同窓会にもぐり込む
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三浦ツヤ |
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二日酔いと寝たり起きたりの連休に詠んだ句
二日酔いの休日うつろな心 遺す一日
吐きくたびれて何も食べぬ日 わずかに痩せる
夜更かしの朝寝坊 一日が短い 夜がすぐ来る
食べてうたた寝 呑んでうたた寝 読んでうたた寝
ごろごろと ひねもす寝たり起きたり また寝たり
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森川信夫 |
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文明に取り残されても人として在りたい
地球の肌の神秘に溶け込んで里人
風の道を開けて侘住い 桔梗一輪
想えば満たされて此処に在ることの恵み
花に遊ばれ風にもてあそばれて誕生日
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森重満江 |
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大の字の体を通り抜ける夏の風
暑さにしょぼくれた向日葵の明日を思う
ドビュッシーの音を拾う独りの夜
拍手の花束にして音符に集まる
将来を語る平成の娘たちは宝石箱に住む
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渡邉江津子 |