父の魂に
真夏の風花に打たれて父の夕陽に会いに行く
意識の花が萎れ死が父をひらく
敬礼して海軍中尉を夏空へおくる(八月十五日、葬儀の日に)
「渡良瀬に散骨せよ」と望んだ骨が重い
ほうたる来い このたましいを連れて行け |
荒木勉 |
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健康が自慢の夫が突然手術やっぱり後期高齢者
徹夜の看病名ばかりでうとうとしている
病室から仰いだ空に北斗七星の輝き
正月を越したかっただろう友をしのぶ
来る年は牛歩でいいおだやかなれば |
石竹和歌子 |
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春の水が匂いだした
見果てぬ夢の風を切る音
またひとつ無常の歳月が冬桜紅色に咲く
月に兎がいる靴の紐しっかり締める
頭から爪先まで鬼が笑っている |
井上泰好 |
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古里がなきながら貝掘っていた
綿々と古里へ水平線上を転がる
夕空に狂う内なる蚊柱
菜の花畑舞う イノチの連続性
軍艦 魚類図鑑を引き裂く |
いまきいれ尚夫 |
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つるうめもどき木々を結んでひなたぼこ
夕焼けが運んで来た台風の予感
トレッキング野山がくれた小さな汗
明るい夢のあるイルミネーション
師走は主婦も走って早い夕暮れ |
内田麻里 |
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あと十年生きるつもりの日記買う
やわらかい風に出不精のくつが歩きはじめる
添え書きに旅の香りが寄りそっている
あいさつ残しユニフオームの子風と走る
忘れていたプランターに点々と光る芽 |
江内キヨ子 |
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船の水尾しずかに消えたあとの凪
友がやさしくなる齢(よわい)に坐る
頭の中へカラス飛んでくる
黙っている日のやさしい冬
やさしく咲きたい山茶花の新しい春 |
大谷房代 |
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老移食読想(隠居必携)
誰知れぬ林棲「四住期」の秋へ
常に常ならず これもまた変わる
大豆小豆鶉豆 理をはかる道のなお遠く
夏は水風呂冬は寝袋 無用の用に招かれて
記憶夢想沈思「おもふ」は何処の誰 |
岡田隆 |
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ああでもない こうでもない 今日もごろ寝
根性という言葉で今日一日
同窓会、自分の年を感じる日
もういいよと言いなが残る未練
春一番が我が家をたたく |
岡部忠則 |
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冬の蝿 宙に留まり 色即是空
走馬灯 廻している炎ゆらゆら
泣きべそのカボチャころがす秋の空
ずりずりと猫に寄り添われて臍を噛む
鼻毛を宇宙に飛ばす昔話 |
おがわひであき |
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一日で車椅子から杖へ新しい医術
熱も朝には治まる 孫にも遺伝
作られる句が反抗 素直になろう
派遣の人の年越しを炊き出しボランティア
夢は旅に決めて そのときをいさぎよく |
門田美和子 |
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肩肘張らずそこそこで勤め終え
栞ちょっと挟んでここから次の階段
目も皺にして笑う妻と二人だけの団欒
ささやかに生きたい株の乱高下
ヒトがモノとなっている風の寒さよ |
金子新吾 |
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老いも若きも途方に暮れるニッポン
派遣の父の手を離さない幼子たち
格差社会から見える懐かしい昭和
化石燃料で宙を焦がす地球号
共生を呼びかける新大統領への期待 |
川田征男 |
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夕日に向かい寂しさ持ち帰る
うろこ雲は大鯛 夕焼けを泳ぐ
見ている夕日に見守られている
黄色の主張 銀杏の輝き
一番の自分色でもみじの山道 |
工藤かおり |
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雪が降る
雪が黙って降って純白の世界
音もなく視界を変えて雪がふる
真っ白な雪の道を汚して歩く
とどめなく降る雪 果てしない懺悔
雪が消えて足跡だけが残る |
桑原一朗 |
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すてきれない枕 かすかな潮騒
ほかほかの焼きいも 夫婦でよかった
干柿ずらり 里はみんないきている
たそがれにぽつんと君の靴いろ
しびれた手にも夢を ミニトマトちぎる |
重富架光 |
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山頂でほおばるむすびのうまさ
目を楽しませる紅葉山に登る
冬日さびしく咲く冬桜
気ばかりあせるカレンダー一枚残す
軒先の柿のれんういれしい気分に |
清水ステ |
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落ち葉うらも表もみせて土になる
更衣ポケットに別なドキドキ
散る二葉 残る一葉すなおになる
春が来るよと受験生に一言
エネルギー反射 文化祭の構造 |
下瀬美保子 |
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スコアボードが泣く 乾盃の泡
古代がよみがえる菖蒲のむらさき
かけ流しの湯を呑む 枯葉一葉
タートブアンの光に赤ワイン香る
揺れる吊り橋 遠山起立 |
白松いちろう |
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摘み手の消えた春菊に花が
よし 鰯雲の底を這ってゆこう
ハッスル商店街というさびれた看板
きこえますか木枯らしのハーモニー
新宿 用に似た人を見失う |
新山賢治 |
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寂寞の夜は顕信の句に沈む
昨夜みた夢の不思議のせて紫煙のぼる
家郷はここかと風吹き抜ける
酔うた共の瞼にひとり暮らしの母
もう母は答えない塩や醤油のありどころ |
新山博之 |
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無花果の葉ボソッと落ちた霜の朝
休田(やすみだ)のコスモス一面(ひとも)に呼び戻さるる
千の風口ずさみやっぱり墓地の私
一瞬(ひととき)を筆と遊ぶと自分になれる
つる枯れてより好奇心 |
菅道江 |
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黄色い声のカーテンに跳ね返る真夏の日ざし
朝霧に濡れオクラのつぼみを口に
オクラの精に抱かれて踊るワルツ
肌と肌ふれあう命のいぶき
サクサクと同じ想いの人影遠くなる |
杉山和子 |
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陽があって道の枯草
山の路いっぱいに秋を踏む
山の水は秋ゆっくり
寒い手をさすり大根を干す
持つ人は来ない新聞をくりかえしみる |
高橋正治 |
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山を歩き 春を踏む
カチカチに凍ったタオル一枚取り残されている
これでお別れの夕日が沈む
予定過ぎても生きている不安
アリランがわたしの故郷を引き寄せる |
高村昌雄 |
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進しかない 腹這う
老兵を試すかジャンダルムの雫
まあたらしい献花に引き締まる
雑魚寝の夢はそれぞれの穂高
風花かたちを見せては舞う |
立花さとる |
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きっぱりと青空 私が私でいる
出会いは万華鏡の中の必然
まわり道する私もいる
丸くなった石のなくしたもの
何もかも知っているのに過ぎてゆく風 |
田中里美 |
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伯母が逝き遠くなるふるさと
故郷の紅葉の中に消えた人
紅葉あられもなく身を染める陽の光
風の道に銀杏(ぎんなん)探す人となる
青春はあったのか三十才で散った父 |
田中利男 |
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おわる なにかが終わる 湯豆腐
はじまる なにかが始まる 結氷期
正月終わるとすぐ伸びてくる髭と爪
正月過ぎの理屈っぽい落語きいている
牛の歩み見たいと来たが舗装されちゃった |
田中陽 |
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凍てつく軍鶏が食べたい龍馬の夜
春雨の瑞山に眠る瑞山の無念
どっかと情熱吹き上げる南洲の桜島
出立(しゅったつ)おもしろき世の東行の旅
古の霞たなびく卑弥呼の里 |
田中流転 |
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雲ほのかにあかね雲
うねってなびくビールピン 思いっきり行き先は
雑踏のプラハをひとり 何処へ
去年も歩んだこの道 どんぐりをひろふ
手編みの肩かけ はずんだ友の声をきく |
種田 美奈子 |
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細いトンネルをぬければ母のふるさと 錦の秋
やっと得た紅葉に囲まれるしあわせ
真っ白な大きな大根しばしなでる 父の声
一枚の枯葉に私を重ねる
野菜やおしめで貯め山頭火の句碑 |
坪郷也寸志 |
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手づくりの郵便受け大きな顔して
熟柿枯葉の上にまた下に
秋風で顔洗うコスモスも私も
火と対話する今日の湯加減
じいさんばあさん背中合わせて暖をとる幸せ |
戸田勝範 |
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おだやかな川で時を流している
筋を通してひばり垂直に鳴く
朝日を吊り上げる猛者の来るまえ
残る柿の濃くしている夕の宙(そら)
雑草 柱を一本たてておく |
富永鳩山 |
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寒椿を背負って黒い犬ハシル
風呂の栓ヌク裸体アラワ・ル
点・線・面・時空その有無フム
六月の雨は地球の芯まで濡らす
草木塔と草木灯が並んで居眠る |
泥澄 |
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ボーッと海みている
ゆきかう船に手をふり笑った
明日もあるのよ どうして急ぐの
水ぬるみ乙女らの白き足光る
あの虹追いかけてみた少女のころ |
中村ユキ子 |
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不景気不景気それでも地球はまわっている
庭いっぱいに落葉の贅沢
雪ぐもが勝坂峠を越えてきた
夕張メロンみたいな月ね 銀座の女が言ったっけ
まだ、もう、やっと六十七歳 |
那須正幹 |
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この道まだ続くか芋を食う
あしたのわらじを冬陽煎る
今日の飢え渋い 爪を噛む
穿てぬ壁に黒ずむ血の脈
けば立つポケットの中に昨日が煮える |
西村謙 |
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風の中赤い柿ひとつ今を生きる
どう生きる 死ぬまで生きろと教えられ
こだわりを捨てた心をゆする風
光るひざ自転車おどる女学生
皮一枚ぬいで百日紅 夏終る |
濱田知子 |
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角曲がる瞬間八百屋が青空屋
どんぐりの真似して今日はベレー帽
雪道歩いて吹雪へ出る
後ろ向きで明日が懐かしい
木漏れ日になって輝く虫食い穴 |
林木林 |
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ひまわり咲ききってこの国のさびしさ
死んでいる場合じゃないと下駄をそろえる
打ち水でまだ働いている昭和のバケツ
かぐやからみた青い地球にすむわたし
春はヨガのポーズで一本の樹になる |
平岡久美子 |
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小さなコオロギが 暑さに耐えて秋をみている
全てを背負って木に登るヤドカリのしあわせ
甲高い声ザリガリ連れて汗連れて
あらゆる出来事に「意味」を感じて暮らしてゆく
冬の贈りもの 選ぶ指先はずんでいた |
枡田裕子 |
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青い地球を思う私のエコバック
子曰く孫の声に背筋伸ばす
えと変わらん 二時間も三時間もマラソンはえらい
夢はクリスマスイブの笑顔の母
忘れないでね夢はこぶサンタクロースの話 |
松浦正人 |
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雲を見下ろすなんて軽くなったもんだ(飛行機にて)
道ばかり見ていた今日
砂浜に走って跳ねる大喜びの若さ
夕焼けだからもすこし歩こ
東西南北ダブルピースのクラス写真 |
松永眞弓 |
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せみの声に目覚める 今日の始まり
畝(うね)作りに汗流す 傍らに彼岸花
爺ちゃんの臭いだ!懐かしい!孫娘の第一声
野菊咲く山路往く 微笑めば鳥の声
欠礼の便りが多くなったこの師走 あと僅か |
三原英教 |
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陽を浴び水を得て植物は嘘を知らない
武器が地球を蛇行 空気を蹴ちらかす
秋の果実いただき恵みの不思議
今年も歩けた明るい年むかえるつもり
躓いた石に明日を教わる |
森重満江 |
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どのレタスも球捲かないまま クリスマス
寒い夕焼けタナゴは背鰭を宙釣りに
波に潜り 跳ね飛び サヨリ逃走す
砂上の鱸は人垣を睨み 目を閉じた
一塩の野沢菜 白い飯が旨い |
山田剛義 |
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月までの道を酔っている
足元が笑う砂利道を行く
明日への断絶が日めくりカレンダー
缶ビール2本で消した夢
水たまり飛びこえて春 |
吉本知裕 |
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振りそでを着て朱の季節を始める
三年ぶりの顔にはちきれそうな未来を見る
見覚えのある自転車に名前をさがす
月の降る夜に読む千年の物語
ちょっとだけのりしろを大きくして生きてみる |
渡邉江津子 |